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ANNA BLUME (Plenzlauer Berg)

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水中花ならぬ、氷中花。
ロシアおろしが容赦なく吹きすさび、50年ぶりの厳しい寒さに凍てついたドイツ。
そんな過酷なこの冬「期間限定商品」がならぶ、ここは「ANNNA BLUME」。
「アンナのお花」という意味の、同名のカフェに併設の花屋の店先に咲いた冬の花。

ひさしぶりに昇った太陽にも、氷の花たちはひるむ様子などまったくなし。
ただ美しく、誇り高く輝き返していた。その姿はたくましく、優雅である。
マイナス10度の散歩中に見つけた、今年最初の春。
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「最高」気温がマイナス5度などと、冗談のような寒波がつづいた時には、万全を期した「重ね着」が有効であった。ドイツのセントラルヒーティングはどこも完璧だから、移動中のことだけ考えていればよい。しかし、ひとたび室内に入ると、これが大変厄介なことになる。毛皮のブーツを脱ぎ、厚手のコートを脱いだあとも、一枚、二枚、三枚...と脱ぎ続けなければならない。寒さに強いドイツ人には目をむかれ、そして一言、「…玉ねぎ!」

冬の長いドイツのカフェには、かならずコート掛けがあるが、この冬はコートをかけてからも、マフラーは例のごとくコートの腕のところに内側からさしこむ(こちらのクロークで始めて知った方法)として、席についてから「玉ねぎの皮むき」をはじめなければならない。
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普段は隣の席のことなど目入らない様子で、話し続けたり、本を読みふけっているドイツ人も、一枚だけでなく、二枚、三枚と脱ぎ続けていると、視界の隅にはいる雰囲気の異様さに、つい顔を上げてしまうらしい。一体どこまで行くのかと見守りたくなるのであろうか。これらのはがれた洋服は、空いたイスの上に、そのご主人様よりもうずたかく積み上げられ、脱ぐものがなくなると視線は今度はその山に移る。半ばあきれた笑みを送ってくれる人も少なからず。こちらにとっては死活問題だというのに、その目は「同じ人間とは思えないね」と苦笑している。
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そんな寒波を吹き飛ばすかのような、世界各国からの熱気に包まれた「ベルリナーレ」。
ベルリン映画祭が先日幕を閉じた。
カンヌにつづき、世界で二番目に大きな映画祭である。

今年もとうとう実際に映画館に足を運ぶことは実現できなかったが、週末にせめて華やいだ雰囲気でも味わおうと、ベビーカーを引いてポツダマープラッツまで少々遠出の散歩にでかけた。

チケット売り場の列の近くまで行き、わくわくしている人の気持ちをちょっと盗む。
映画館ごとに上映映画のスケジュールがはりだされている大きなボードをみながら、ペンを片手に自分だけの映画のはしごのスケジュールをつくる人たちの真剣な目。どんなタイトルの映画があって、何がすでにソールドアウトか並んで見ながら、ついでに彼らのおろしたてのスケジュール帳をのぞき見みしてみる。まだ見ぬ映画に期待を膨らませ、らんらんと輝く目には、隣のぶしつけな視線など視界にない様子。腕時計にちらっと目をやって、それぞれがそれぞれのに目的地に向かって放射線状に散っていく。快い活気を残して。

この時期の電車の中は、がぜん英語濃度が高い。それも巻き舌の英語(アメリカン)。
それ以外にも、イタリア語、フランス語が飛び交い、さらに認識できない言葉も間に混じってくる。みんながみんな、そろいに揃って同じパンフレットを持ち、映画館と上演作品がはいったスケジュール表を熱心にチェックしている。食事の時間を惜しむかのように袋から顔をだしたバゲットをほおばる人も多数いて、その視線の先は、もちろんそのスケジュール表である。

友達同士やグループで来ている人は、混雑している車内でばらばらの席に座っているため、互いに隣人に遠慮しながらも、目配せしあったり、おしゃべりしあったりして、見るからに楽しそうである。映画のお祭りというだけあって一人旅や、一人で鑑賞して回っている人も多いように見えるが、一人であっても「ベルリナーレ人」は、すぐわかる。ポッと光がともっているかのように顔が一段明るいのだ。わかりやすいか、わかりにくいかの違いだけで、みな一様に楽しそうであり、気持ちの高揚と期待とで、ただでさえ狭い車内は熱気でむんむんしていた。

一方、こちらは職場から帰宅途中のたまたま電車に乗り合わせた、ただの住人。
その日は、忙しい一日で昼食はバナナ一本とコーヒー数杯という身、ちょうど人いきれの熱気に当たりはじめてきた頃だった。

「ちょっと、お願い、いいかしら....」
どこからか聞こえてきた声にはっとわれに帰る。
気がつくと隣の60代と思しきドイツ人のご婦人がこちらにぬっと顔を出してきている。
「もちろんですよ、なんでしょうか」
「ごめんなさい、めがねをかけてないと何にも見えなくって。デルフィーっていう映画館ってどこにあるのかしら」
「デルフィー、デルフィー...はい、ここですよ、34番って印がついてますよ。次の次の駅でおリて、駅前からカント通りにそってこういって、このあたりの12番地。5分ほどですよ」
「おかげで助かったわ、ありがとう」

まだ一つ手前の駅だというのに、そのご婦人は笑顔でもう一度丁寧にお礼を言いのこし、出口の方にたっていった。とはいっても車内は相当狭い上に大変混み合っている。結局は先ほどまで座っていた場所から1メートルも離れていない。ここからだと映画館が集まっている同じその駅でみんな降りるはずである。ゆっくり座っていてもいいものを、気がはやるのだろうか。しかし、一つ手前の駅から、はるか前方の出口の方向に体を向けてたっている姿は、なんだかいかにも楽しそうである。陰に隠れて見えなかったけれど、その向こうできっと足は小さく足踏みしていたに違いない。
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映画祭にいくつもの映画を観てまわるような人というのは、きっと若くて、スタイリッシュ、またはファッションに興味のある芸術家肌の人や少なくとも個性の強い人だと勝手に想像していた。けれど、実際は電車の中を見渡してみても、メイン会場を行き来する人たちを見てもとても普通の人、であった。それも中年以降の人が多い。お金と時間に余裕があるからだろうか。

前述のご婦人も「メディア関係」とか「映画オタク」などとは縁遠く見える普通の人であった。つまりスーパーで買い物をしている時、毎日すれ違っている人のうちの一人でありそうなくらいに。しかし、そのご婦人からは「特別な日」という雰囲気が漂っていた。

誰に見られるわけでもないだろうに(映画館は暗がりだし、それも自分が見るほうであるわけで)化粧は丹念に施され、その丁寧な顔には満面の笑顔が広がっていたし、洋服は汚れが目立つからと普段は敬遠されがちな白のコーディネート。決してスマートとはいえないのに、リュックを背負っている姿は軽快であった。よく見るとパンツにはプレスがピシッと効いている。楽しそうな目と、そのさわやかな白が印象的だった。

窓の外は今日も雪。
しかし、ダストのような雪から、ぼってりとしたボタン雪にかわっている。
明日は雨らしい。 日々あたたかくなっていく。
日中の気温が0度を越す日もでてきて、そんな日は、マイナス一枚。
足取りも少し軽くなってきて、このごろ花屋を占領している色とりどりのチューリップや、球根の鉢植えが目に飛び込んでくる。
気分も色づく。
なんとなく、心が躍る。

外はまだまだ寒いけれど、人々の心は一足先に確実に春に向かっている。
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ANNA BLUME
KOLLWITZSTRASSE 83
ECKE SREDZKISTRASSE
10435 BERLIN
TEL 030-4404 8749
(U)EBERSWALDERSTRASSE
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by sommergarten | 2006-02-04 15:19 | cafe